飲食店の厨房にある「グリストラップ」の管理は、避けて通れない悩みです。
「誰が掃除を担当すべきか」という線引きがあやふやなまま、スタッフ任せにしていませんか?
実はその運用が、スタッフの突然の退職や、排水管詰まりによる営業停止、さらには法律違反による罰則といった大きなトラブルの火種になっていることがあります。
この記事では、清掃のプロが「どこまでが店舗でできる範囲で、どこからがプロに頼むべき領域か」を、法律と現場の負担の両面からわかりやすく解説します。
この記事を特に読んでほしい人
・グリストラップ掃除をスタッフやアルバイト任せにしているオーナー様
・厨房スタッフから「臭い・きつい・辞めたい」と言われたことがある店長様
・汚泥の捨て方や、廃棄ルール・法律面に不安を感じている方
・掃除トラブルが原因で、クレームや人手不足を招きたくない方
この記事があまり必要ない人
・すでに信頼できる清掃業者と契約し、トラブルなく運営できている方
・グリストラップが設置されていない店舗の方
※現状に問題がない場合は、無理に読み進める必要はありません
グリストラップ清掃は「誰がやる」のが正解?法と実務の境界線
お店のルールとして「どこまでを自分たちで行い、どこからを業者に任せるか」をはっきり決めておくことが大切です。
ここが曖昧だと、現場が混乱するだけでなく、思わぬ法律違反を招く恐れがあります。
清掃作業自体に「公的資格」は不要だが実務には危険が伴う
まず前提として、グリストラップの掃除をすること自体に、調理師免許のような特別な「資格」は必要ありません。
そのため、法律上は店長やアルバイトスタッフが掃除をしても問題はありません。
しかし、「資格がいらない=誰でも安全にできる」わけではありません。
グリストラップの中には、腐った油やカビ、多くの細菌が溜まっています。
正しい知識や防護装備なしで触れると、細菌感染や、溜まったガスによる体調不良を引き起こす危険性があります。
「誰でもできる雑用」ではなく「リスクのある作業」だと認識する必要があります。
日常的な「バスケットのゴミ捨て」は店舗スタッフの業務範囲
グリストラップの構造上、一番手前の「第1槽」にあるカゴ(バスケット)には、野菜くずや食べ残しなどの固形ゴミが流れ着きます。
これらは放っておくとすぐに腐って強烈なニオイを放つため、毎日の営業終わりにスタッフが回収するのが一般的です。
このカゴの中のゴミに関しては、多くの自治体で「燃えるゴミ(事業系一般廃棄物)」として捨てることが認められています。
そのため、日々のルーティンとしてスタッフが行う範囲と言えます。
これをサボると、カゴが詰まって排水が逆流し、厨房の床が水浸しになってしまいます。
底部に堆積した「汚泥引き抜き」は産業廃棄物業者の専門領域
一方で、底に溜まったドロドロの「汚泥(ヘドロ)」や、水面に浮いて固まった「油の塊」は扱いが異なります。
これらは法律で「産業廃棄物」と決められており、家庭ごみのように捨てることはできません。
回収や処分をするには、都道府県知事から許可を受けた専門業者しか行えない決まりになっています。
スタッフがすくい取ること自体は可能ですが、その後の処理が難しく、底の汚れを完全に取り除くには専用のバキューム車などの機械が必要です。
そのため、ここは無理せず専門業者に任せるべき領域です。
アルバイトやパートに「全清掃」を強要してはいけない理由
たとえ採用時に「清掃含む」と伝えていても、あまりに不衛生で危険な作業を無理やりやらせることは避けるべきです。
本来、料理を作ったり接客をしたりするために入ったスタッフにとって、ヘドロまみれになる作業は大きなストレスになります。
「仕事だから当然」と押し付けると、パワハラと受け取られたり、安全配慮義務違反(従業員の安全を守る義務)を問われたりする可能性があります。
日常の簡単なゴミ捨てと、本格的な汚泥掃除は分けて考えるのが、トラブルを防ぐコツです。
飲食店オーナーが直視すべき「スタッフにグリストラップ清掃をさせる」経営リスク
現場のスタッフにとって、この作業は体力的にも精神的にもかなり辛いものです。
経営者からは見えにくい現場の苦労と、それがお店に与えるマイナスの影響についてお伝えします。
3K(きつい・汚い・危険)業務がスタッフの早期離職を招く最大要因
厨房スタッフがお店を辞める理由として、グリストラップ掃除の辛さが挙げられることは少なくありません。
「服や髪に腐敗臭が染み付いて取れない」「ゴキブリが湧いているヘドロを触りたくない」といった不満は、働く意欲を大きく下げてしまいます。
特に、時給に見合わない過酷な作業だと感じると、他の飲食店へ転職してしまうきっかけになります。今はどの店も人手不足です。
掃除が原因でスタッフが辞めてしまい、新しい人を採用・教育するコストがかかるなら、最初から掃除を外注したほうが安く済むケースも多いのです。
不慣れな作業による転倒事故や業務用端末(iPad等)の水没・破損リスク
グリストラップの周りは、油と水で非常に滑りやすくなっています。
慣れていないスタッフが作業中に足を滑らせて転倒し、怪我をする事故が起きる可能性があります。
また最近は、注文やマニュアル確認のためにiPadなどのタブレット端末を持っている店が増えています。
掃除中にうっかり端末を胸ポケットから落とし、汚泥の中に水没させてしまう事故も起きています。
高価な機械の修理代がかかるだけでなく、お店のデータが消えるといった被害も考えられます。
清掃に費やす「人件費・教育コスト」とプロへの委託費用の比較
スタッフがグリストラップ掃除を行う場合、準備から後片付けまで含めると1時間近くかかることもあります。
その間も当然お給料は発生します。さらに、洗剤や道具を買う費用もかかります。
・スタッフの時給 × かかる時間 × 人数
・掃除道具や洗剤の代金 ・辞めてしまった場合の採用コスト
これらを計算してみると、専門業者に月1回頼む費用とあまり変わらないか、むしろ自分たちでやるほうが高くついていることもあります。
「外注費」という目に見える金額だけでなく、トータルのコストで判断することが大切です。
素人の清掃では落としきれない汚れが「害虫・悪臭」の原因になる
専用の道具がないスタッフの手作業では、どうしても取りきれない汚れが残ります。
特に排水管の奥や、槽の隅っこに残った油は、酸化して固まり、強烈な悪臭を出し続けます。
このニオイが客席まで漂うと、お客様に不快な思いをさせてしまいます。
また、残った汚れはコバエやゴキブリのエサになり、害虫が増える原因にもなります。
徹底的にきれいにできないこと自体が、お店の衛生リスクを高めてしまうのです。
絶対にやってはいけない「グリストラップのゴミの捨て方」と産業廃棄物処理法
ここでは法律に関わる特に重要なお話をします。
間違った捨て方をすると「知らなかった」では済まされない、重い罰則を受けることがあります。
除去した汚泥・油脂は「産業廃棄物」であり一般ゴミ廃棄は違法
グリストラップから出た汚泥(ヘドロ)や油は、法律で「産業廃棄物」と決められています。
これらは、たとえ水を切って乾燥させたとしても、普通の燃えるゴミ(事業系一般廃棄物)としてゴミ捨て場に出すことは禁止されています。
もし一般ゴミに混ぜて捨てた場合、「不法投棄」という犯罪になります。
自治体のゴミ回収車はこれらを持っていきませんし、もし見つかれば警察の捜査対象になることもあります。
違反時に排出事業者が課される「5年以下の懲役」または「1,000万円以下の罰金」
廃棄物処理法(ゴミに関する法律)の罰則はとても厳しいものです。
不法投棄をしたり、許可のない業者に処分を頼んだりした場合、実際に捨てた人だけでなく、依頼したお店の責任者にも罰則が適用されます。
最悪の場合、「5年以下の懲役」か「1,000万円以下の罰金」、あるいはその両方が科せられます。
さらに、違反した事実が公表されることもあり、お店の信用がなくなって営業できなくなるリスクもあります。
委託時に発行義務がある「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」の仕組み
産業廃棄物の処分を業者に頼むときは、「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」という書類を発行しなければなりません。
これは、「出したゴミが不法投棄されずに、最後まで正しく処理されました」ということを証明する記録です。
業者が回収に来たときにこの書類が出ない、あるいは後から控えが戻ってこない場合、その業者は正しく処理をしていない可能性があります。
依頼した側も「確認義務」があるため、必ずマニフェストを発行してくれる業者を選びましょう。
店舗のシンクや排水口へ汚泥を流す行為が引き起こす配管閉塞トラブル
回収が面倒だからといって、すくい取った汚泥をシンクに流したり、トイレに流したりするのは絶対にやめてください。
油を含んだ汚泥は、冷えると固まって排水管の内側にへばりつき、管を塞いでしまいます。
排水管が詰まると、厨房の排水が逆流して溢れ出すだけでなく、テナントビル全体の排水管を詰まらせてしまい、他の店舗にまで迷惑をかけることがあります。
配管の洗浄や交換工事には、数十万円単位の費用がかかることもあります。
業者に頼まず自力で行う場合の「グリストラップ清掃」手順と必須道具
どうしても予算の都合などで、自分たちで掃除をしなければならない場合のために、最低限必要な手順と道具を紹介します。
この作業を毎回確実にできるかどうかが、自分たちでやるかプロに頼むかの判断基準になります。
①【準備】感染症を防ぐための保護具(ゴム手袋・長靴・マスク)と専用器具
作業する人は必ず自分の身を守る装備をつけてください。汚泥には食中毒の原因菌が含まれていることがあるので、素手で触るのは厳禁です。
肘まである厚いゴム手袋、長靴、汚泥が跳ねても大丈夫なようにゴーグルやマスクを用意します。
道具としては、底の泥をすくう「ひしゃく」や「金網(ストレーナー)」、油を吸い取る「油吸着シート」、回収した汚泥を入れるための専用容器などが必要です。
②【第1槽】バスケットの残渣除去は毎日行い悪臭の発生を防ぐ
第1槽にあるカゴを引き上げ、中に溜まったゴミをゴミ袋に移します。網目に詰まった細かい汚れは、ブラシでこすり落とします。
これは毎日のお店の片付けとして必ず行ってください。1日でもサボると、ゴミが腐ってヘドロになり、すぐにカゴが詰まってしまいます。
③【第2槽】浮上した油脂(ラード)は週1回以上専用シートですくい取る
第2槽の水面には、冷えて白く固まった油(ラード)の膜ができます。
これを放っておくとどんどん分厚くなり、排水管へ流れ出して詰まりの原因になります。
ひしゃくや網を使って、浮いている油を丁寧に取り除きます。
取り除いた油は産業廃棄物になるので、一般ゴミとは分けて保管します。油吸着シートを使うと、手軽に油だけを取り除けます。
④【第3槽】トラップ管の詰まりを防ぐための定期的なブラッシング清掃
第3槽は、油やゴミが取り除かれた水が流れる最後の場所ですが、ここにも細かい汚れが溜まります。
特に排水管につながる「トラップ管」という筒の中は汚れやすい場所です。
筒のフタを外し、長いブラシを入れて中を掃除します。ここが詰まるとグリストラップ全体が機能しなくなり、排水が逆流してしまいます。
⑤【保管】取り出した汚泥は水気を切り指定の産業廃棄物保管場所に置く
回収した汚泥や油は、水をよく切ってから、産業廃棄物専用の容器に入れます。
保管場所は、悪臭が漏れないようにフタができ、周りに汚水が漏れないようにしておく必要があります。
回収業者が来るまでの間、お店の中で衛生的に保管できる場所を確保しなければなりません。
失敗しないグリストラップ清掃業者の選び方と費用相場
安さだけで業者を選ぶと、後でトラブルになることがあります。安心して任せられる業者を選ぶためのポイントをお伝えします。
産業廃棄物収集運搬業および処分業の「正式な許可証」を持っているか
業者選びで一番大切なのは、その地域の「産業廃棄物収集運搬業許可」を持っているかどうかです。
ホームページや見積書に許可番号が書かれているか必ず確認してください。
許可のない業者が「安く処分します」と言って回収し、不法投棄をした場合、頼んだお店側も責任を問われます。
「回収だけなら許可はいらない」といった嘘の説明をする業者には注意が必要です。
汚泥を完全に吸引洗浄する「バキューム式」か簡易的な「手作業」かの違い
清掃方法には、専用のバキューム車で汚泥を一気に吸い取るタイプと、人の手ですくい取るタイプの2種類があります。
きれいにすることを目的にするなら、バキューム式がおすすめです。
バキューム式は底の汚れを根こそぎ吸い取り、高圧洗浄機で洗うので、新品に近い状態までリセットできます。
手作業だけの業者は安いですが、細かい汚れが残りやすく、ニオイが完全には取れないことがあります。
料金の安さだけで選ぶと不法投棄の法的責任を問われるリスクがある
相場よりも極端に安い見積もりを出す業者は、正しい処分費用をかけていない可能性があります。産業廃棄物を正しく処分するには必ずお金がかかります。
安すぎる価格には理由があると考えたほうが良いでしょう。
リスクを避けるためには、適正な価格で法令を守っている業者を選ぶことが、結果としてお店を守ることになります。
清掃完了後の「マニフェスト発行」と作業報告書の提出有無を確認する
契約する前に、「マニフェスト(ゴミの管理票)」を発行してくれるかを確認しましょう。
また、作業前後の写真がついた報告書を出してくれる業者は信頼できます。
報告書があれば、保健所の検査があったときにも「ちゃんと管理しています」と証明できます。
掃除をした証拠をしっかり残してくれるかどうかも、業者選びの大切なポイントです。
まとめ:汚泥処理はプロに任せ、スタッフは本業の接客・調理に集中させる
グリストラップ掃除は、法律、衛生管理、スタッフの働きやすさ、すべてに関わる重要なお仕事です。
無理に自分たちだけでやろうとすると、スタッフが疲れて辞めてしまったり、法律違反のリスクを抱えたりと、多くの問題が起こりやすくなります。
大変で危険な汚泥処理は、許可を持ったプロに定期的に任せて、スタッフには本来のお仕事である「美味しい料理を作ること」や「お客様へのサービス」に集中してもらう。
それが、長くお店を続けるための賢い選択ではないでしょうか。
「今の管理方法で大丈夫かな?」「もっときれいにしたい」とお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。